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法学の予習ノート

鈴鹿隣人訴訟

鈴鹿隣人訴訟(昭和58年2月25日 津地裁)

 住宅地内の農業用溜池で溺死した幼児の事故につき、注意義務違反が存在していたのに事故の発生を防ぐ措置を取らなかったことから、好意で幼児を預った近隣者に対して不法行為に基づく賠償責任を肯定。ただし、原告らの子に対するしつけのあり方に至らぬところがあったと推認されることから、過失相殺の法意を類推。

 近隣者については、効果意思の不存在により、被告の子らに対する一切の監護を委ねる準委任契約は成立せず、債務不履行に基づく損害賠償請求は否定。

 子に対し100万円の慰謝料を認定。原告に対し各50万円の慰謝料を認定。

 弁護士費用については、原告に対し各20万円のみ認定。

 葬儀費用については認めない。

 溜池の設置管理等は市町村の行政事務であり、また、本件溜池の管理を鈴鹿市が本件溜池を事実上管理していたことから国家賠償法が適用されることを前提としながら、本件現場の状況を踏まえ、親その他の監護者の保護をはなれた幼児らが池の中心部に向かって5,6メートル進むといった所為に出て事故発生に至ることを予見してこれを防止するため防護柵等の設備を設けるべき法的義務が当然に管理者にあるものとは認め難いとして、市の責任を否定。

 国・県については、本件溜池を管理していた事実が認定されないことから責任を負わず。

 工事会社については、満水後掘削現場付近まで侵入し、深みに入る幼児等のあることまで予見し、これを防止するための措置をとるべき注意義務があったとはいえないことから、責任を否定。

関連条文

準委任、受任者の善管注意義務

第六百五十六条  この節の規定は、法律行為でない事務の委託について準用する。 

第六百四十三条  委任は、当事者の一方が法律行為をすることを相手方に委託し、相手方がこれを承諾することによって、その効力を生ずる。

第六百四十八条第一項  受任者は、特約がなければ、委任者に対して報酬を請求することができない。

第六百四十四条  受任者は、委任の本旨に従い、善良な管理者の注意をもって、委任事務を処理する義務を負う。

債務不履行・損害賠償

第四百十五条  債務者がその債務の本旨に従った履行をしないときは、債権者は、これによって生じた損害の賠償を請求することができる。債務者の責めに帰すべき事由によって履行をすることができなくなったときも、同様とする。

第四百十六条  債務の不履行に対する損害賠償の請求は、これによって通常生ずべき損害の賠償をさせることをその目的とする。
2  特別の事情によって生じた損害であっても、当事者がその事情を予見し、又は予見することができたときは、債権者は、その賠償を請求することができる。

第四百十七条  損害賠償は、別段の意思表示がないときは、金銭をもってその額を定める。

第四百十八条  債務の不履行に関して債権者に過失があったときは、裁判所は、これを考慮して、損害賠償の責任及びその額を定める。

有償寄託・無償寄託

第六百五十七条  寄託は、当事者の一方が相手方のために保管をすることを約してある物を受け取ることによって、その効力を生ずる。

第四百条  債権の目的が特定物の引渡しであるときは、債務者は、その引渡しをするまで、善良な管理者の注意をもって、その物を保存しなければならない。

第六百五十九条  無報酬で寄託を受けた者は、自己の財産に対するのと同一の注意をもって、寄託物を保管する義務を負う。

不法行為・共同不法行為

第七百九条  故意又は過失によって他人の権利又は法律上保護される利益を侵害した者は、これによって生じた損害を賠償する責任を負う。 

第七百十一条  他人の生命を侵害した者は、被害者の父母、配偶者及び子に対しては、その財産権が侵害されなかった場合においても、損害の賠償をしなければならない。

第七百二十一条  胎児は、損害賠償の請求権については、既に生まれたものとみなす。 

第七百二十二条  第四百十七条の規定は、不法行為による損害賠償について準用する。
2  被害者に過失があったときは、裁判所は、これを考慮して、損害賠償の額を定めることができる。

作為義務

 刑法においては、不真正不作為犯が成立するためには、①法的作為義務の存在、②作為の可能性・容易性、③作為との構成要件的同価値性が必要。法的作為義務の発生根拠は、①法令、②契約・事務管理、③慣習・条理。

不作為と因果関係

「因果関係の認定は,不作為による不法行為の場合,理論的に困難な問題を提起する.不作為の場合,「あれなければ」と言っても,何をすべきだったのかが決まらないと因果関係の判断ができない.ところが,特定の行為がなされていれば損害は回避できたということ ,言い換えれば,生じた結果を回避するために特定の行為をなすべ きであ った,という判断をすれば,それは過失判断と同じだから,因果関 係を判断しているようでいて,実は,過失判断に帰着する .だから,不作 為による不法行為については因果関係を観念できないという批判もある . しかし,例えば医療過誤の場合,生じた結果と切り離して,当該医師が何 をすべきであ ったかを判断することは可能であると思われ,その行為義務 を果たさなか ったこと が結果を招来した蓋然性を評価することはできる . 行為義務違反はあ ったが,行為義務を果たしていても結果を防げなか った 可能性が高いということもありうる.その場合は,不作為と結果との間に 因果関係はないと評価される. したが って,不作為について も因果関係を 論ずることはできると言うべきだろう(判例はそのように判断している).」

(内田民法2より)

相続関係

第八百八十七条  被相続人の子は、相続人となる。
2  被相続人の子が、相続の開始以前に死亡したとき、又は第八百九十一条の規定に該当し、若しくは廃除によって、その相続権を失ったときは、その者の子がこれを代襲して相続人となる。ただし、被相続人の直系卑属でない者は、この限りでない。
3  前項の規定は、代襲者が、相続の開始以前に死亡し、又は第八百九十一条の規定に該当し、若しくは廃除によって、その代襲相続権を失った場合について準用する。

第八百八十九条  次に掲げる者は、第八百八十七条の規定により相続人となるべき者がない場合には、次に掲げる順序の順位に従って相続人となる。
一  被相続人の直系尊属。ただし、親等の異なる者の間では、その近い者を先にする。
二  被相続人の兄弟姉妹
2  第八百八十七条第二項の規定は、前項第二号の場合について準用する。

第八百九十六条  相続人は、相続開始の時から、被相続人の財産に属した一切の権利義務を承継する。ただし、被相続人の一身に専属したものは、この限りでない。

無主物の帰属

第二百三十九条  所有者のない動産は、所有の意思をもって占有することによって、その所有権を取得する。
2  所有者のない不動産は、国庫に帰属する。 

地方公共団体の事務

地方自治法第2条

2 普通地方公共団体は、地域における事務及びその他の事務で法律又はこれに基づく政令により処理することとされるものを処理する。

3 市町村は、基礎的な地方公共団体として、第五項において都道府県が処理するものとされているものを除き、一般的に、前項の事務を処理するものとする。

4 市町村は、前項の規定にかかわらず、次項に規定する事務のうち、その規模又は性質において一般の市町村が処理することが適当でないと認められるものについては、当該市町村の規模及び能力に応じて、これを処理することができる。

※地方分権一括法による改正前の2条3項では、「固有事務」、「団体委任事務」、「その他の行政事務」について各号列記していた。この例示は、改正前の第2項の規定が抽象的であったので、昭和23年の改正でその事務の内容を具体的に例示し、地方自治運営の指針を与えるものとしたものであった。しかし、結果的に様々な誤解を読んだことから、分権一括法により地方公共団体の事務・権能が包括的に広く定められたことなどから、列記部分を削除した。

国家賠償

国家賠償法

第二条  道路、河川その他の公の営造物の設置又は管理に瑕疵があつたために他人に損害を生じたときは、国又は公共団体は、これを賠償する責に任ずる。
○2  前項の場合において、他に損害の原因について責に任ずべき者があるときは、国又は公共団体は、これに対して求償権を有する。 

ポイント

善管注意義務

 社会において一般人につきその職業や地位に応じて、取引上要求される程度の注意義務。「自己の財産に対するのと同一の注意(659条)」、「自己のためにするのと同一の注意(827条)」よりもやや重い。

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一般不法行為の要件

①故意・過失(709条)

②権利又は利益の侵害(709条)

③損害の発生(709条)

④因果関係(709条)

⑤責任能力(712条、713条)

⑥違法性阻却事由のないこと(720条等) 

一般不法行為の効果

 金銭賠償が原則であるから、特に法律の定めがあるか、あるいは特約がない限り、原状回復を求めることはできない。

過失

 損害発生の予見可能性が有るのに、不注意によりこれを予見せず、結果の発生を回避する行為義務(結果回避義務)を怠ったこと

 「予見可能性を前提とした結果回避義務違反」

相当因果関係

 416条は、現実に生じた損害のうち、債務不履行があれば通常生ずるであろう損害を賠償させる相当因果関係の原則を表明したもの。 

 不法行為の場合にもこの規定を類推適用すべき。

過失相殺

 損害賠償額を定めるについて、被害者に過失があったときにこれを考慮する制度

 趣旨:損害の公平な分担

 過失の認定のためには責任能力は不要。事理弁識能力(4〜5歳程度以上)があれば足りる。(過失相殺の問題は、不法行為社に対し積極的に損害賠償責任を追わせる問題とは趣旨を異にし、不法行為による損害賠償額を定めるについて、公平の見地から、損害発生・拡大についての被害者の不注意をいかに考慮すべきかの問題にすぎないから。)

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「被害者側の過失」による過失相殺

被害者本人と身分上・生活関係上一体をなすとみられるような関係にある者の過失は考慮できる。(最判昭51.3.25)  

好意同乗

「一般原則通り賠償請求を認めることに,何ら問題はなさそうではある . しかし,好意で乗せてもらったことが何か責任に影響しないだろうか. こ れが好意同乗 と呼ばれる問題で,一般に,好意で,つまり無償で何かして もらって損害が生じた場合,好意であることが減額事由になるのではない かが議論されている.法的構成としては,過失相殺の類推適用や信義則が使われ,裁判例も多い。

 好意同乗以外のケースとしては,隣人訴訟 として有名な津地判 好意関係 昭和 58年 2月 25日 (判時 1083-125. 好意で預か った近所の幼児が水死。過失相殺の法意を類推して 7割減額),ボランティアによる子供の引率 に関する津地判昭和 58年 4月 21日(判時 1083-134.ボランティアによる子 ども会のハイキングで児童が水死.子供自身の不注意と無償性を考慮して 8害lj減 額)等がある .

 一般的に好意関係と呼ぶことができよう.このような好意関係を賠償額の減額事由とすることに対しては,強い批判もある. しかし,わき見運転で横断歩道を渡っている歩行者をひき殺した場合と同じ賠償責任を課すことが躊躇されるのも事実である. 減額の法的構成としては過失相殺の法意が援用されるが,好意 ・無償と いうファクターは本来の過失相殺からはますます遠い.それにもかかわらず過失相殺が援用されるという事実は、過失相殺の法理が、実は深いところでより大きな法原理に連なっていて、その原理が援用されるということを示唆しているだろう。

 すなわち,被害者の行為態様や素因,さらには加害者と被害者の人間関係といったファクターが,加害者の帰責性 (過失 ・違法性 ・寄与度等の表現で表現される.有るか無いかではなく量的概念で ある)の程度に影響し,それが賠償額の縮減を要請するということである. より広くいえば,加害者はその損害に対する帰責性の度合に応じて賠償義 務を負うということであり,いわゆる保護範囲に入るとされる損害についても,加害者の帰責性を減ずる要素があると,最終的な賠償額の算定において斟酌されるのである (帰責性の原理と呼ぶことにしよう).これは,いわば当然のことではあるが,民法の規定上は正面からは定められていないため,その法原理のひとつの表現である過失相殺の法理が援用されているの である . 同じような状況は,損害の発生に他人の加害行為や自然力 が加わ った場合にも生ずる. しかし,そこでは,この原理は共同不法行為 の原理(損害全額についての連帯責任)と衝突することになる.」

(内田民法Ⅱより)

キーワード

請求の趣旨:民事訴訟法上、原告が裁判所にどのような判決を求めるかを簡潔に表示する訴えの結論にあたる部分。訴状の必要的記載事項(民訴133条2項)。

請求の趣旨に対する答弁:原告の主張に対する被告の主張。

訴訟物:訴訟の目的。原告が被告に対して主張する権利・法律関係。判決主文における訴訟物についての判断に既判力が生ずる(民訴114条1項)。

太政官布告:太政官は明治前期の最高官庁。明治18年に太政官性が廃止されて内閣性が発足し、19年2月には公文式の制定により、太政官布告の形式は廃止された。しかし公文式施工前に施工されていた布告は、後法に矛盾しない限り、その後も引き続き効力を有し、明治憲法の施行後もなお、効力を有するものとされた(明治憲法76条1項)。日本国憲法の施工後も、明治憲法の下で法律としての効力を認められたものは、その内容が憲法に反しない限り、その効力を存続すると解されている。

条理:物事の筋道。

不知の陳述:民事訴訟において、当事者が、相手方の事実主張に対し、その真偽は知らないと答えること。現行法条、不知の陳述は否認と推定されるので(民訴159②)、不知と答えられた事実は相手方が立証しなければならない。

国家賠償法の「公の営造物」:国又は公共団体等の行政主体により、特定の公の目的に供される人的物的施設の総合体。国家賠償法においては、個々の建築物・物的施設そのものを指している。

法定外公共用物:現在は存在しない。かつては、社会通念上の道路及び河川等として一般の用に供されているものの中に、公物管理法(道路法等)が適用されないために、公物としての管理のあり方が明確ではない、法定外の公共用物が存在した。いわゆる里道や普通河川といわれるものがこれにあたる。これらの法定外公共用物は、所有権の観点からすると、国有財産であるとされていたが、地方公共団体の中には、実質的な管理を行っている団体もあった。法定外公共用物については、その管理制度の不備がかねてより指摘されていたため、平成11年の分権一括法により、法的解決が図られ、里道・水路の用に供されている国有財産は、市町村に譲与され、市町村の自治事務として財産管理及び機能管理がなされることになった。

・効果意思:方によって実現する効果を目指す意思。内心的効果意思と表示上の効果意思は必ずしも一致しない。

・証憑:証拠

・善きサマリア人の法理:「災難に遭ったり急病になったりした人など(窮地の人)を救うために無償で善意の行動をとった場合、良識的かつ誠実にその人ができることをしたのなら、たとえ失敗してもその結果につき責任を問われない」という趣旨の法

※以上、「法律学小辞典第4版補訂版」を参照

暗記事項

民法の典型契約

贈与・売買・交換

消費貸借・使用貸借・賃貸借

雇用・請負・委任・寄託

組合・終身定期金・和解

倉庫番、74(しちし)の国旗、詳しい

そ=贈与

う=請負

こ=交換

ば=売買

し=消費貸借

ち=賃貸借

し=使用貸借

こ=雇用

き=寄託

く=組合

わ=和解

し=終身定期金

い=委託

過失の定義

予見可能性を前提とした結果回避義務違反

民法上の要物契約

使用貸借契約(593条)

費貸借契約(587条)

託契約(657条)

物弁済契約(482条)

権設定契約(342条、344条)

手付契約(557条)

「ようぶつ師匠期待する手付

※上から3つ目までは典型契約

契約内容についての一般的有効要件

定性

現可能性

適法

会的妥当性

確実適法社

法律行為の解釈の基準

当事者の目的

意規定

義則

当時目的堪忍し

疑問点

・判例中の「条理上或いは信義則上の注意義務」とは? 事件当日の、被告の原告に対する言動によるものか。

・受任者の注意義務については、有償無償を問わず善管注意義務となるとするのが通説だと考えていたが、被告らが、民法551条1項及び659条の類推適用を主張するのは適切なのか。

・本件で、本当に準委任が認められないのか

・民法における「公平」の要求は、どこから求められるのか。憲法14条が、国家は国民を不合理に差別してはならないという平等原則の他に、法的に平等に扱われる権利ないし不合理な差別をされない権利(平等権)を保障したことによるのか。

・なぜ本件で葬儀費用が認められなかったのか。

・過失相殺の法意を類推したのは、本件幼児が3歳で、事理弁識能力がないことから本来的には過失相殺にならないところ、被害者側の過失により、親の過失も含めて過失相殺をしたから? 被害者本人に事理弁識能力がなくても、被害者側である親に事理弁識能力がある以上、過失相殺できるのではないか。

→被害者本人に事理弁識能力がない以上、本来的にはそもそも過失相殺をすることができず、被害者側の過失を考慮して過失相殺を直接適用することはできない。被害者側の過失に係る典型例である、自動車事故の事案においても、被害者自身が3歳の子どもで事理弁識能力がなければ、類推適用するしかない。

↑果たして本当にそうか。実際には、東京地裁平成27年2月10日判決のように、被害者である幼児(3歳)に事理弁識能力を認めなかった場合であっても、被害者側の過失の理論によって、過失相殺を直接適用している例がある。ここで類推適用と言っているのは、今回裁判所が考慮している「平素からの靖幸に対するしつけの在り方に至らぬところがあったこと」というのが、本来過失相殺において考慮すべき過失(予見可能性を前提とした回避義務違反)に該当しないことから722条を直接適用することはできないものの、損害の公平な分担という見地から同条を類推適用したということではないか。(また、このことは、原告固有の損害についても、722条を類推適用していることとも整合する)